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岩手県平泉町の静寂な森の奥深く、達谷窟毘沙門堂は、時の流れを超えて佇んでいます。この堂は、切り立った岩壁に抱かれるように建てられ、その姿はまるで自然と一体となったかのようです。岩壁の下部に設けられた懸崖造りの建築様式は、京都の清水寺を彷彿とさせ、訪れる者の心を奪います。
この地は、かつて蝦夷の族長・悪路王が拠点とした岩屋であったと伝えられています。801年、征夷大将軍・坂上田村麻呂がこの地を平定した際、戦勝の感謝を込めて、京都・鞍馬山の毘沙門天を勧請し、堂を建立しました。以来、達谷窟毘沙門堂は、東北地方有数の霊場として、多くの参拝者を迎えています。
堂の左手の岩壁には、高さ約16.5メートル、肩幅約9.9メートルの「岩面大佛」が刻まれています。これは、前九年の役と後三年の役で亡くなった敵味方の霊を供養するために、源義家が彫りつけたと伝えられています。この磨崖仏は、日本国内でも最北端に位置するものとして知られ、その荘厳な姿は訪れる者の心を打ちます。
境内は神聖な領域として、飲食や動植物の採取、殺生、ペットの同伴などが固く禁じられています。そのため、周囲の穏やかな風景とは一線を画す、厳かな空間が広がっています。また、ここで授与される護符「牛玉寳印」は、「最強の御札」として名高く、貼れば悪鬼を払い福を招くとされています。この護符は人気が高く、期間中でも無くなってしまうことがあるため、運よく手に入れることができれば、ぜひ授かりたいものです。
達谷窟毘沙門堂は、歴史と自然が織りなす神秘的な空間であり、訪れる者に深い感動と静寂をもたらします。その荘厳な佇まいと、長い歴史に彩られた物語は、今もなお多くの人々を魅了し続けています。