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高知市薊野北町の一角に、白亜の要塞のような建物がそびえ立つ。それが「沢田マンション」、通称「沢マン」だ。この建物は、建築の専門知識を持たない沢田嘉農氏と裕江夫人が、1971年から数十年にわたり独力で築き上げた、まさに手作りの集合住宅である。
地下1階、地上5階建て(一部6階建て)の鉄筋コンクリート造りで、約70戸、100人以上が暮らすこのマンションは、増築に増築を重ねた結果、迷宮のような構造となった。設計図は存在せず、嘉農氏の頭の中にのみ描かれたビジョンが、現実の形となっている。
建物の正面には、4階まで車で上がることができるスロープが設けられており、これは当初エレベーターを設置する資金がなかったための工夫である。また、屋上には畑や池があり、鯉が泳ぐ姿も見られる。さらに、鶏やウサギが飼われており、まるで一つの小さな村のような雰囲気を醸し出している。
内部は、同じ間取りの部屋が一つとして存在せず、各部屋が個性的な空間を持つ。共用部分には緑があふれ、花々が咲き乱れ、住民同士の交流が自然と生まれる設計となっている。この自由で柔軟な発想から生まれた建築は、建築家やアーティストからも注目を集め、「日本の九龍城」や「日本のサグラダ・ファミリア」とも称されている。
1階には「藁屋」というおしゃれなレストランがあり、地元の野菜を活かした定食やカレーが人気を博している。このレストランは、沢田マンションの雰囲気とは対照的な洗練された空間で、多くの人々が訪れる。
沢田マンションは、建築基準法の観点からは違法建築とされるが、住民の居住権や私有財産権の問題から、行政も黙認せざるを得ない状況にある。しかし、この建物が持つ独特の魅力と、そこに住む人々の温かさは、多くの人々を惹きつけてやまない。
この場所は、単なる建築物を超え、人々の夢と情熱が形となった、生きた芸術作品とも言えるだろう。訪れる者は、その自由な発想と創造力に触れ、心を揺さぶられること間違いない。