風の電話

岩手県大槌町にある追悼の電話ボックス

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岩手県大槌町の丘の上、海を見下ろす庭園の一角に、白い電話ボックスが静かに佇んでいます。その中には、どこにも繋がっていない黒電話が置かれています。この場所は「風の電話」と呼ばれ、亡き人への想いを風に乗せて伝えるための特別な空間です。

この電話ボックスは、ガーデンデザイナーの佐々木格さんが、病で亡くなった従兄弟との対話を求めて2010年に自宅の庭に設置したものです。翌年、東日本大震災が発生し、大槌町は甚大な被害を受けました。多くの人々が家族や友人を失い、深い悲しみに包まれる中、佐々木さんはこの「風の電話」を一般に開放しました。以来、全国から多くの人々が訪れ、受話器を手に取り、亡き人への想いを語りかけています。

電話ボックスの扉を開けると、静寂が広がり、外の世界から切り離されたような感覚に包まれます。受話器を耳に当てると、風の音や鳥のさえずりが微かに聞こえ、まるで亡き人がそばにいるかのような錯覚を覚えます。多くの訪問者がここで涙を流し、心の内を語り、そして少しずつ前を向いて歩き出す力を得ています。

庭園内には、佐々木さんが手作りした「森の図書館」や「ツリーハウス」もあり、訪れる人々に安らぎと癒しを提供しています。これらの空間は、震災で傷ついた心を持つ人々が集い、共に時間を過ごす場となっています。

「風の電話」は、物理的な通信手段ではなく、心と心を結ぶ架け橋として、多くの人々に寄り添い続けています。ここを訪れることで、亡き人への想いを風に乗せて伝え、心の中で再びつながることができるのです。