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隅田川のほとり、東京スカイツリーの影が水面に映る場所に、ひょうたん型の小さな釣り堀が静かに佇んでいます。ここは、墨田区立隅田公園魚つり場。都会の喧騒を忘れさせる、穏やかな時間が流れる空間です。
春の訪れとともに、隅田公園の桜が満開となり、釣り堀の周囲も淡いピンク色に染まります。桜の花びらが風に舞い、水面にそっと落ちる様子は、まるで日本画の一場面のよう。釣り糸を垂れる人々の表情も和らぎ、自然と笑顔がこぼれます。
この釣り堀は、主に小・中学生を対象としていますが、大人も利用可能です。利用料はわずか30円。えさや釣り具は各自持参する必要がありますが、近くの売店で購入することもできます。釣り竿は3メートル以内、針は返しのないものを使用するというルールが設けられています。釣れる魚はヘラブナで、釣った魚の持ち帰りはできません。
この地は、かつて徳川御三家の一つ、水戸藩の下屋敷「小梅御殿」があった場所です。広大な庭園と池が広がり、江戸時代の錦絵にも描かれた優美な景観を誇っていました。関東大震災後、屋敷は全壊しましたが、その後公園として整備され、現在の隅田公園となりました。公園内には、当時の庭園の名残が感じられる日本庭園もあり、歴史の息吹を感じることができます。
また、隅田公園内には牛嶋神社が鎮座しています。境内には「撫牛(なでうし)」と呼ばれる石像があり、自分の身体の具合の悪いところと同じ箇所を撫でると治るという言い伝えがあります。江戸時代から庶民の信仰を集めてきたこの神社は、今も多くの参拝者で賑わっています。
釣り堀の周囲には、地元の人々が集い、釣りを楽しむ姿が見られます。常連の釣り師たちは、ここでの釣りに特化した手製の竿置きを持参し、短い竿での小粋な江戸釣りを楽しんでいます。初めて訪れる人も、地元の人々の温かい雰囲気に包まれ、すぐに馴染むことができるでしょう。
隅田川沿いのこの場所は、江戸時代から桜の名所として知られ、8代将軍・徳川吉宗の命で植栽された桜がルーツとされています。春には多くの人々が訪れ、桜を愛でる姿が見られます。また、夏には隅田川花火大会が開催され、夜空を彩る花火とともに、釣り堀周辺も賑わいを見せます。
都会の真ん中で、自然と歴史、そして人々の温かさが交差するこの場所。釣り糸を垂れながら、隅田川の流れとともに、心も穏やかに流れていくような感覚を味わえるでしょう。