蟠龍寺

東京都目黒区に位置する歴史ある寺院

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目黒の喧騒から一歩足を踏み入れると、そこには静寂と緑に包まれた別世界が広がっている。山手通り沿いに佇む蟠龍寺は、江戸時代の宝永6年(1709年)、増上寺の高僧・霊雲上人によって再建された浄土宗の寺院である。その名の「蟠龍」は、とぐろを巻いた龍を意味し、境内の池の形状が龍が身をくねらせる姿に似ていることから名付けられたと伝えられている。

山門をくぐると、参道の脇に「不許辛肉酒入山門」と刻まれた石柱が目に入る。これは「辛いもの、肉、酒を持ち込むことを禁ずる」という意味で、寛政6年(1794年)に律院となった際の戒律の名残である。参道を進むと、手入れの行き届いた庭園が広がり、四季折々の花々が訪れる者の目を楽しませてくれる。池のほとりでは、亀が甲羅干しをし、静かな水面に映る緑が心を和ませる。

本堂には、都の文化財に指定されている木像阿弥陀如来像が安置されている。その穏やかな表情は、訪れる者の心を静め、日常の喧騒を忘れさせてくれる。本堂の右手奥には、岩窟内に鎮座する八臂弁財天が祀られている。この弁財天は、山手七福神の一つとして信仰を集め、芸能や芸術の神として多くの人々に親しまれている。岩窟の中に足を踏み入れると、ひんやりとした空気とともに、神秘的な雰囲気が漂い、心が引き締まる思いがする。

境内の奥には、「おしろい地蔵」と呼ばれるお地蔵様がひっそりと佇んでいる。その昔、顔に痘痕(あばた)がある娘が、この地蔵に願掛けをしたところ、痘痕が消え、幸せな生涯を送ることができたという伝説が残っている。以来、美人祈願の地蔵として、多くの女性が訪れ、おしろいを塗って祈願する風習が続いている。江戸時代には、歌舞伎役者たちもおしろいの鉛害に悩み、この地蔵におしろいを塗って願掛けをしたと伝えられている。

また、蟠龍寺の境内には、音楽スタジオ「蟠龍寺スタジオ」が併設されている。これは、弁財天が音楽や芸術の神であることにちなみ、住職自らが音楽活動を行い、寺院を文化発信の場として活用しているためである。このように、伝統と現代文化が融合した蟠龍寺は、訪れる者に新たな発見と感動を与えてくれる。

目黒の街中にありながら、静寂と自然、そして歴史と文化が息づく蟠龍寺。その境内を歩けば、心が洗われ、日常の喧騒から解放されるひとときを過ごすことができる。四季折々の風景とともに、訪れる者を温かく迎えてくれるこの寺院は、まさに都会のオアシスと呼ぶにふさわしい。