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愛知県豊橋市の北東、標高358メートルの石巻山は、古来より人々の信仰と畏敬を集めてきた霊峰である。その山容は遠くからでも一目で識別でき、特に西麓から望むと、三角形の美しい姿が際立つ。山頂付近には石灰岩の巨岩が林立し、低山ながらも壮観な景観を呈している。
山の中腹には、延喜式内社である石巻神社が鎮座しており、古代からの信仰の中心地となっている。この神社は、山頂近くの上社と山麓の下社の二社から成り、祭神として大己貴命を祀っている。特に下社は、三河地方で四番目に格式の高い神社とされ、豊橋市唯一の式内社として知られている。 (net-plaza.org)
石巻山には多くの伝説が息づいている。その一つに、石巻山と本宮山が高さを競い合った「背比べ伝説」がある。両山が自らの高さを主張し、間に樋を渡して水を流し、流れ落ちた方が低いと決めた結果、石巻山側に水が流れ込み、敗北を認めたという。この悔しさから、石巻山は登山者に小石を持参して山に置いていくよう願い、そうすれば願い事を叶えると伝えられている。逆に、山から石を持ち帰ると祟りに遭うとも言われている。 (megalithmury.com)
また、山中には「石巻の蛇穴」と呼ばれる洞窟があり、直径約60センチ、奥行き約13メートルのこの穴には、大蛇が住んでいたという伝説が残っている。昔、村人が雨乞いのために石巻山に登った際、大きな白蛇が現れ、社を建てるよう告げた。村人がその通りに祠を建てると、岩の間から霊水が湧き出し、村人たちは日照りから救われたという。この洞窟は、その大蛇が住んでいた場所とされている。 (bqspot.com)
山頂からの眺望は360度のパノラマが広がり、天候が良ければ遠く富士山を望むこともできる。登山道は整備されており、中腹まで車でアクセス可能で、そこから徒歩で山頂を目指すことができる。途中、鉄梯子や鎖場などの岩場があり、登山者にとっては適度な挑戦となる。また、山頂周辺の石灰岩地には、マルバイワシモツケやクモノスシダなどの石灰岩地特有の植物が生育しており、国の天然記念物「石巻山石灰岩地植物群落」に指定されている。 (city.toyohashi.lg.jp)
石巻山は、自然の美しさと歴史、伝説が融合した場所であり、訪れる者に深い感銘を与える。その神秘的な魅力は、今もなお多くの人々を惹きつけてやまない。