片山酒造

明治十三年創業、伝統技法を守り続ける日光の老舗酒蔵

About

日光の静寂な町並みに佇む、明治十三年創業の片山酒造。その木造の酒蔵は、時の流れを超えて、今もなお職人たちの息遣いと情熱を宿している。

酒蔵の入り口には、深い井戸が静かに佇み、日光連山から流れ出る大谷川の伏流水「千両水」を湛えている。この水は、初代が新潟県柏崎から良質な水を求めて旅立ち、ここ日光でようやく見つけた宝物である。地下十六メートルから汲み上げられるこの軟水は、口当たりが柔らかく、酒造りにおいてまろやかな味わいと香りを生み出す源泉となっている。

片山酒造の酒造りは、伝統的な「佐瀬式」という手法にこだわり続けている。もろみを一つ一つ手作業で袋詰めし、丹念に積み重ね、上からゆっくりと圧力をかけて酒を搾る。この方法は時間と手間がかかるが、余分な雑味を排除し、酒本来の旨味を最大限に引き出すことができる。現在、栃木県内でこの製法を採用している酒蔵は一割にも満たないが、片山酒造は創業以来、この伝統を守り続けている。

使用する米にも強いこだわりがある。兵庫県産特Aランクの「山田錦」や、栃木県が約十三年の歳月をかけて開発した酒米「夢ささら」を使用し、酵母も栃木県が開発した特別なものを採用している。良質な原料を使用しなければ、本当に美味しい酒は造れないという先代からの教えを忠実に守り、決して値段や使い勝手の良さだけで原料を変更することはない。

片山酒造の看板商品である「柏盛」は、搾り終わった酒に水を加えない原酒として、発売以来三十年間多くの地酒ファンに親しまれてきた。その中でも「柏盛 素顔」は、圧力をかける前に自然と染み出た希少な部分だけを、ろ過も熱処理もせずに瓶詰めした完全な生原酒として各方面から高い評価を受けている。

酒蔵の中に足を踏み入れると、木の香りと酒の芳醇な香りが漂い、時が止まったかのような静寂が広がる。天井には化学的な塗料を使わず柿渋が塗られ、むき出しの電線が昭和の時代を彷彿とさせる。この建物は、当時の職人技と知恵が詰まった貴重な酒蔵であり、釘を一本も使わずに建てられているという。大きな地震があっても一度もタンクが倒れず無事だったという逸話もあり、先人たちの知恵と技術に感嘆せざるを得ない。

片山酒造では、酒蔵見学も受け付けており、伝統的な酒造りの工程を間近で見ることができる。見学時期が搾りの時期であれば、搾りたてをその場で試飲することも可能である。また、見学に来た方には、お土産用の商品も用意されており、酒造りの奥深さと職人たちの情熱を肌で感じることができる。

日光の豊かな自然と歴史に育まれた片山酒造。その一滴一滴には、職人たちのこだわりと情熱、そして伝統への敬意が込められている。訪れる人々は、ここでしか味わえない至高の日本酒と、時を超えた酒造りの物語に酔いしれることだろう。