漂流郵便局

宛先のない手紙を受け付けるアートプロジェクト

About

瀬戸内海に浮かぶ小さな島、粟島。その静寂な海辺に佇む一軒の古びた建物がある。かつて郵便局として島の人々の生活を支えたその場所は、今や「漂流郵便局」として新たな命を宿している。

この郵便局は、届け先のわからない手紙を受け取る特別な場所だ。亡き家族への想い、未来の自分へのメッセージ、伝えられなかった愛の告白…。人々の心の奥底に秘められた言葉たちが、ここに集まってくる。

局内に足を踏み入れると、木の床が軋む音が心地よく響く。壁一面に並ぶブリキ製の私書箱には、全国から寄せられた手紙が静かに眠っている。手紙を手に取ると、見知らぬ誰かの切なる想いが伝わり、胸が熱くなる。

この漂流郵便局は、2013年の瀬戸内国際芸術祭で現代美術家・久保田沙耶さんによって創られたアートプロジェクトだ。旧粟島郵便局の建物を活用し、元局長の中田勝久さんが再び局長としてこの場所を守り続けている。開局から10年が経ち、これまでに5万6千通以上の手紙が届いたという。 (kagawa.uminohi.jp)

手紙を読む人々の中には、涙を流す者も少なくない。他人の手紙を通じて、自らの心の奥底に眠る感情と向き合う時間が、ここには流れている。手紙を書くことで、心の整理をし、新たな一歩を踏み出すきっかけを得る人も多い。

粟島へは、三豊市詫間町の須田港から船で15分。港から徒歩5分ほどで漂流郵便局に辿り着く。毎週土曜日の午後1時から4時まで開局しており、訪れる人々を温かく迎えている。入館料は300円。 (mitoyo-kanko.com)

この小さな島の郵便局は、時を超え、場所を超え、人々の心をつなぐ架け橋となっている。手紙に込められた想いが、誰かの心に届く日を夢見て、今日も静かに手紙を受け取り続けている。