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別府駅東口を出ると、目の前に現れるのは、満面の笑みを浮かべ、両手を高く掲げた一人の紳士の銅像である。その姿は、まるで天から舞い降りてきたかのように、訪れる人々を温かく迎え入れている。この像は、「別府観光の父」と称される油屋熊八氏を讃えたものであり、彼の情熱と功績が今もなおこの地に息づいていることを物語っている。
熊八氏は、愛媛県宇和島の米問屋に生まれ、波乱万丈の人生を経て、別府の地に辿り着いた。彼は、別府温泉の魅力を全国に広めるため、数々の斬新なアイデアを実現した。例えば、日本で初めて女性バスガイドを起用し、地獄めぐりの観光バスを運行したことは、観光業界に新たな風を吹き込んだ。また、「山は富士、海は瀬戸内、湯は別府」というキャッチフレーズを考案し、これを刻んだ標柱を富士山頂に建てるなど、独創的な宣伝活動を展開した。
銅像の足元には、小さな鬼がしがみついており、これは別府の名物である地獄めぐりを象徴している。このユーモラスな演出は、熊八氏の遊び心と、観光客を楽しませたいという思いが込められている。像の台座には、「旅人をねんごろにせよ」という彼の信念が刻まれており、これは訪れる人々への深いおもてなしの心を示している。
熊八氏は、子どもたちにも深い愛情を注ぎ、「オトギ倶楽部」を結成して童話や音楽を提供するなど、地域社会への貢献も惜しまなかった。そのため、地元の人々からは「ピカピカのおじさん」と親しまれ、今もなおその愛称で呼ばれている。
別府駅前に立つこの銅像は、熊八氏の情熱と創意工夫、そして人々への深い愛情を象徴している。訪れる者は、彼の温かい笑顔と力強い姿勢から、別府の歴史と文化、そして人々の心意気を感じ取ることができるだろう。この地を訪れた際には、ぜひ熊八氏の像の前で足を止め、彼の偉業に思いを馳せてみてはいかがだろうか。