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福島県本宮市の静かな路地を進むと、時代の流れに逆らうかのように佇む一軒の建物が目に入る。それは、1914年(大正3年)に「本宮座」として開業し、後に「本宮映画劇場」と名を改めた、築110年を超える歴史を持つ映画館である。木造三階建てのこの劇場は、かつて最大で1000人もの観客を収容し、芝居や映画上映、さらには歌謡ショーやプロレスなど、多彩な興行で地域の文化の中心として栄えた。 (motomiya-machiaruki.com)
館内に足を踏み入れると、昭和の香りが色濃く残る空間が広がる。壁には往年の映画ポスターが所狭しと貼られ、木製の座席や舞台が当時のままの姿で迎えてくれる。特に目を引くのは、日本で唯一現役で稼働するカーボン式映写機だ。この映写機は、2本の炭素棒に電流を流し、その発光を利用して映像を映し出す仕組みで、上映中は常にカーボンの間隔を調整する必要があるという、映写技師の熟練した技術が求められる代物である。 (press.moviewalker.jp)
1963年(昭和38年)に一度は閉館したものの、館主の田村修司氏は映画館への愛情を絶やすことなく、定年後に再開を果たした。その情熱は、日々のメンテナンスやフィルムの保存作業に注がれ、2019年の台風19号による水害で多くのフィルムが被害を受けた際も、SNSを通じて支援を呼びかけ、フィルム救済プロジェクトを立ち上げるなど、映画文化の継承に尽力している。 (daily.co.jp)
本宮映画劇場は、単なる映画館ではなく、時代を超えて人々の心をつなぐ場所である。その建物や映写機、そして館主の情熱が、訪れる者に映画の持つ魔法と、過ぎ去った時代の温もりを伝えている。ここを訪れれば、まるで映画『ニュー・シネマ・パラダイス』の世界に迷い込んだかのような、懐かしさと感動が胸に広がるだろう。