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新宿御苑の静寂な日本庭園の中、池のほとりに佇む一棟の建物がある。その名は旧御涼亭、通称「台湾閣」。昭和2年(1927年)、昭和天皇の御成婚を祝して、当時台湾に在住していた邦人有志の手によって贈られたこの建物は、異国情緒漂う美しさで訪れる者を魅了する。
設計を手がけたのは、台湾総督府の建築家であった森山松之助。彼は中国南部、福建省の閩南(ビンナン)建築様式を採用し、屋根の軒の反りや漆喰仕上げの棟の燕尾、朱色の瓦、そして卍型の平面形状など、細部に至るまでその特徴を忠実に再現した。柱には台湾杉、天井の鏡板には台湾扁柏や台湾檜が用いられ、建材の多くが台湾から取り寄せられている。 (ktr.mlit.go.jp)
池に映るその姿は、まるで水面に浮かぶ詩の一節のよう。春には桜が舞い、秋には紅葉が彩りを添える。四季折々の風景と調和し、訪れる人々に静謐な時間を提供する。かつて新聞では「水の上に建つ御休息所」「夏の御散策の際に涼をとる建物」と称されたこの場所は、今もなおその役割を果たしている。 (mlit.go.jp)
戦火を免れたこの建物は、平成14年(2002年)に保存改修工事が行われ、創建時の姿を取り戻した。その後、東京都選定歴史的建造物に指定され、一般公開されている。訪れる者は、ここで日本と台湾の歴史的な絆を感じ、異国の風を感じることができる。
新宿の喧騒を離れ、静寂に包まれたこの場所で、時を超えた美しさと歴史の息吹を感じてみてはいかがだろうか。