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福岡市博多区の御供所町に佇む聖福寺は、静寂と歴史が息づく場所です。この寺院は、1195年に臨済宗の開祖・栄西禅師によって創建され、日本最初の禅寺として知られています。境内に足を踏み入れると、都会の喧騒が嘘のように消え去り、心が落ち着く静寂が広がります。
境内の一角には、ひっそりと佇む一本の茶の木があります。この木は、栄西禅師が中国から持ち帰った茶の種を日本で初めて植えたことを記念して、佐賀県吉野ヶ里町松隈の石上坊跡から移植されたものです。高さ約1.5メートルほどのこの茶の木は、他の木々と比べると控えめな姿をしていますが、その存在は日本茶の歴史を物語る貴重な証人です。
栄西禅師は、宋での修行中に禅寺でお茶が盛んに飲まれていることを知り、その効能に注目しました。帰国後、彼は「喫茶養生記」という書物を著し、お茶の栽培と喫茶の習慣を日本に広めました。この茶の木は、そんな栄西禅師の偉業を讃える象徴として、ここに根を下ろしています。
聖福寺の境内を歩くと、禅宗様式の建築が整然と並び、歴史の重みを感じさせます。山門には、後鳥羽天皇から贈られた「扶桑最初禅窟」の勅額が掲げられ、日本最初の禅寺としての誇りが伝わってきます。また、境内には放生池や菩提樹があり、四季折々の風情を楽しむことができます。
この地を訪れると、栄西禅師がもたらした禅の教えとお茶の文化が、今もなお息づいていることを実感します。静寂の中で、茶の木を眺めながら一服のお茶を味わうと、心が洗われるような感覚に包まれます。福岡市の中心部にありながら、ここは時の流れがゆっくりと感じられる、心のオアシスのような場所です。