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京都の奥嵯峨、静寂に包まれた山あいの道を進むと、愛宕念仏寺がひっそりと佇んでいます。この寺は、奈良時代の天平神護2年(766年)、称徳天皇によって創建されました。当初は東山の地に建立されましたが、度重なる洪水や戦乱を経て、大正時代に現在の地へと移されました。
境内に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは、苔むした千二百体もの羅漢像です。これらの石仏は、昭和の時代に一般の参拝者が自らの手で彫り上げたもので、一体一体が異なる表情と仕草を持っています。笑みを浮かべるもの、瞑想にふけるもの、猫を抱くものや杯を交わすものまで、その多様さに心が和みます。まるで石仏たちが訪れる者を温かく迎え入れているかのようです。
本堂は鎌倉時代中期の建立で、和様建築の美しさを今に伝えています。堂内には、念仏を唱える千観内供の木造座像が安置されており、その姿は鎌倉時代の肖像彫刻の傑作とされています。また、地蔵堂には「火之要慎」のお札で知られる火除地蔵菩薩が祀られ、火災から人々を守る存在として信仰を集めています。
春にはシャガの花が境内を彩り、秋には紅葉が羅漢像たちを包み込みます。特に紅葉の季節には、赤や黄に染まる木々と石仏のコントラストが幻想的な風景を作り出し、多くの人々が訪れます。
愛宕念仏寺は、嵯峨野巡りの出発点としても知られています。ここから始まる旅路は、古都の歴史と自然の美しさを存分に味わうことができるでしょう。静寂の中で、千二百の羅漢たちと心を通わせるひとときは、訪れる者に深い安らぎと癒しをもたらします。