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伊勢志摩の穏やかな海風が吹き抜ける丘の上、そこには異国の情緒が色濃く漂う場所がある。白壁に彩られた建物が立ち並び、石畳の道が迷路のように続くその地は、まるでスペインの小さな村をそのまま日本に移したかのようだ。
朝日が昇ると、エスパーニャ通りのカラフルなファサードが輝きを増し、訪れる者を温かく迎え入れる。通りを歩けば、スペインの伝統的な陶器や雑貨を扱う店が軒を連ね、店先には鮮やかなタイルや手描きの絵皿が並ぶ。その一つ一つが、遠い異国の職人たちの手仕事を感じさせる。
広場に足を踏み入れると、中央にはシベレスの女神像が堂々と鎮座し、その周囲を囲む建物のバルコニーからは、色とりどりの花々が溢れんばかりに咲き誇る。広場の片隅では、ギターの音色に合わせてフラメンコのリズムが響き渡り、情熱的なダンサーたちが華麗なステップを踏む。その足音は、まるで大地の鼓動のように観客の心を揺さぶる。
昼下がり、レストラン「アルハンブラ」の扉を開けると、スペインの香りが漂う。レンガ造りの壁とステンドグラスが彩る店内で、伊勢志摩の新鮮な海の幸をふんだんに使ったパエリャが供される。サフランの香りと魚介の旨味が絶妙に絡み合い、一口ごとに地中海の風景が目に浮かぶようだ。
午後の陽射しが傾く頃、ハビエル城博物館を訪れる。重厚な石造りの城内には、スペインの歴史と文化を物語る展示が並び、フランシスコ・ザビエルの生家を模した部屋では、彼の生涯と日本との深い繋がりが静かに語られている。アルタミラ洞窟の壁画の精巧なレプリカもあり、先史時代の芸術に触れることができる。
夕暮れ時、丘の上から眺める伊雑ノ浦の景色は息をのむ美しさだ。穏やかな水面に映る夕陽が、空と海を黄金色に染め上げる。その光景を背に、天然温泉「ひまわりの湯」へと足を運ぶ。露天風呂に浸かりながら、遠くに広がる海と空のグラデーションを眺めるひとときは、まさに至福の時間である。
夜が更けると、園内は幻想的な灯りに包まれる。石畳の道を歩けば、昼間とは異なる静寂とロマンチックな雰囲気が漂い、まるでスペインの夜の街を散策しているかのような錯覚に陥る。星空の下、異国の風を感じながら、心は遥か彼方の地へと旅をする。
ここは、三重県志摩市に佇む志摩スペイン村。日本にいながらにして、スペインの文化と風景、そして情熱を五感で感じることができる特別な場所である。訪れる者すべてに、異国への憧れと旅の喜びを思い出させてくれる、そんな魅力に満ちた地である。