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京都市左京区の静寂な一角、岡崎東天王町に佇む岡崎神社は、古都の喧騒から一歩離れた静謐な空間を提供しています。この地はかつて野兎が跳ね回る自然豊かな場所であり、その名残は今も境内の随所に見られる兎の姿に息づいています。
鳥居をくぐると、まず目に飛び込んでくるのは、伝統的な狛犬ではなく、愛らしい「狛兎」の一対です。右側の兎は口を開けた「阿形」、左側は口を閉じた「吽形」として、参拝者を静かに迎え入れます。これらの兎は、かつてこの地に多く生息していた野兎が多産であることから、子授けや安産の象徴として祀られるようになったと伝えられています。
手水舎には、黒御影石で作られた「子授け兎」の像が鎮座しています。月を見上げるその姿は、古来より月と出産の関係が深いとされる日本の伝統を思わせます。参拝者はこの兎に水をかけ、そのお腹を優しく撫でながら、子宝や安産を祈願します。
本殿の前には、無数の「うさぎみくじ」が整然と並べられています。これらは参拝者が引いた後、境内に奉納されたもので、一つ一つの表情が微妙に異なり、まるで生きているかのような温かみを感じさせます。この光景は、SNSを通じて広まり、多くの人々が訪れるきっかけとなっています。
岡崎神社の歴史は深く、平安京遷都の際、王城鎮護のために都の四方に建立された社の一つとして、都の東に位置することから「東天王」と称されました。祭神である素戔嗚尊と櫛稲田媛命は、多くの子宝に恵まれたことから、縁結びや夫婦和合、子授け、安産の神として信仰を集めています。
境内を歩けば、提灯や絵馬、さらには社務所の戸に至るまで、至る所に兎のモチーフが施されています。これらは、かつてこの地が野兎の生息地であったこと、そして兎が多産であることから、神の使いとして崇められてきた歴史を物語っています。
また、境内には「雨社」と呼ばれる摂社があり、五穀豊穣を祈る雨乞いの神として、龍神が祀られています。この社は、眼病平癒のご利益がある「安目社」とも称され、目の健康を願う人々の信仰を集めています。
岡崎神社は、京都の中心部にありながら、静寂と自然の調和が感じられる場所です。兎たちが見守るこの神聖な空間で、古の都の息吹と、現代に息づく信仰の形を感じ取ることができるでしょう。