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熊本県球磨郡錦町の静寂な山間に、かつての時代の記憶を静かに抱く場所がある。そこは「山の中の海軍の町 にしき ひみつ基地ミュージアム」。太平洋戦争の最中、1943年に建設された人吉海軍航空基地の跡地に立つこのミュージアムは、戦争の影を今に伝える貴重な存在である。
ミュージアムの敷地に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは、鮮やかなオレンジ色に塗られた九三式中間練習機、通称「赤とんぼ」の実物大模型だ。この機体は、昭和9年に制式採用され、約5,770機が製造された。その愛らしい姿は、多くの飛行士たちの青春の象徴であり、戦争の記憶を色濃く残している。 (atpress.ne.jp)
館内に進むと、戦争の歴史を物語る数々の展示が並ぶ。壁面には、人吉海軍航空基地の年表が掲げられ、基地建設から終戦までの出来事が詳細に記されている。また、艦上攻撃機「流星」の風防や、プロパガンダポスターの変遷など、当時の空気を感じさせる貴重な資料が展示されている。 (132base.jp)
しかし、このミュージアムの真髄は、地下に広がる広大な遺構にある。地下魚雷調整場は、総延長233.6メートルにも及ぶ巨大な地下施設で、高さ5メートル、幅5メートルの開口部を持つ3本の並列したトンネルが横穴で繋がっている。壁面には、手作業で掘られたツルハシの跡が無数に残り、当時の労働の過酷さを物語っている。 (132base.jp)
地下兵舎壕や地下作戦室・無線室も見学可能で、これらの施設は、戦時中の兵士たちの生活や作戦の様子を今に伝えている。地下兵舎壕は、奥行き80メートルと45メートルの穴が4本ずつ並び、最奥で全ての壕が横穴で繋がっている。地下作戦室・無線室は、コンクリート造りの頑丈な構造で、当時の重要な作戦がここで練られていたことを感じさせる。 (132base.jp)
ミュージアムの周辺には、庁舎居住地区エリアもあり、当時の隊門や松根油乾溜作業所跡などが確認できる。松根油乾溜作業所跡では、石油の代替燃料として松の木から油脂を抽出していた様子が伺える。これらの遺構は、戦争末期の物資不足の中での工夫と努力を今に伝えている。 (132base.jp)
ミュージアム内には、カフェも併設されており、オリジナルの「人吉海軍キーマカレー」や地元の生乳を使ったソフトクリームなどが楽しめる。戦争の歴史を学んだ後、ここで一息つきながら、平和のありがたさを噛みしめることができる。 (132base.jp)
この地を訪れることで、戦争の悲惨さと平和の尊さを改めて感じることができる。山間の静寂の中に佇む「ひみつ基地ミュージアム」は、過去と現在を繋ぐ架け橋として、訪れる人々に深い感慨を与えてくれる場所である。