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瀬戸内海の穏やかな波間に浮かぶ宮島、その中心に佇む嚴島神社は、まるで海上に舞い降りた朱塗りの夢のようです。潮の満ち引きにより、その姿は刻一刻と変わり、満潮時には水面に映る社殿が幻想的な光景を生み出します。
この神社の創建は推古天皇元年(593年)に遡り、佐伯鞍職によって建立されたと伝えられています。平安時代後期、平清盛がこの地を深く崇敬し、現在のような壮麗な寝殿造の社殿群へと改修しました。その結果、都の文化や建築様式が宮島にもたらされ、雅楽や舞楽といった芸能も伝えられました。
社殿は海上に建てられており、干潮時にはその基礎が露わになり、満潮時にはまるで水に浮かぶかのような姿を見せます。この独特の構造は、海と山、そして人々の信仰が一体となった日本独自の美意識を象徴しています。
神社の象徴とも言える大鳥居は、海中にそびえ立つ高さ16メートルの木造の門で、干潮時には歩いて近づくことができます。この鳥居は、1875年に再建されたもので、2022年12月に約3年半にわたる修復を終え、その壮麗な姿を取り戻しました。
嚴島神社の祭神である宗像三女神、市杵島姫命、田心姫命、湍津姫命は、海の守護神として古くから信仰されてきました。そのため、航海の安全や豊漁を祈願する人々が絶えず訪れます。
毎年7月には、日本三大舟神事の一つである「管絃祭」が開催されます。この祭りでは、御座船が瀬戸内海を巡り、船上で雅楽が奏でられます。満月の夜、海上に響く雅楽の音色と、月明かりに照らされた社殿や鳥居は、まるで平安時代の絵巻物を見ているかのような幻想的な雰囲気を醸し出します。
また、宮島全体が神の島として崇められており、背後にそびえる弥山は原始林に覆われ、古来より霊山として信仰の対象となっています。山頂からは瀬戸内海の多島美を一望でき、その景観は訪れる者の心を打ちます。
嚴島神社は、自然と人間の調和、信仰と美意識が融合した場所であり、その魅力は時代を超えて多くの人々を惹きつけています。訪れる者は、潮の香りとともに、悠久の歴史と文化の息吹を感じることでしょう。