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福岡市中央区長浜の一角、朝日が昇る前から灯りがともる店がある。昭和27年創業の「元祖長浜屋」だ。(ganso-nagahamaya.com)
店の扉を開けると、豚骨の香りが鼻をくすぐる。カウンター越しに見える厨房では、職人たちが手際よく麺を茹で、スープを注いでいる。メニューはシンプルにラーメンのみ。食券を手に席に着くと、店員が「麺の硬さは?」と尋ねる。常連たちは「ナマ」「カタ」と短く答える。これは「生(ナマ)」が最も硬く、「カタ」がやや硬めを意味する。(fukuoka-meguri.com)
ほどなくして運ばれてくる一杯。白濁したスープに、細切れのチャーシューと青々としたネギが浮かぶ。レンゲを使わず、丼を直接口に運ぶのがこの店の流儀。スープはあっさりとしながらも、豚骨の旨味がしっかりと感じられる。細麺は歯切れがよく、小麦の風味が広がる。
卓上には紅ショウガやゴマ、ラーメンのタレが置かれており、好みに応じて味を調整できる。特に、替え玉(追加の麺)を注文する際には、スープの味を濃くするためにタレを加えるのが通例だ。(fukuoka-meguri.com)
この店の歴史は、戦後間もない頃に遡る。創業者の榊原松雄氏は、名古屋の闇市で出会った台湾人からラーメンの作り方を学び、1952年に福岡で屋台を始めた。魚市場で働く人々のために、素早く提供できるよう細麺を採用し、替え玉のシステムも考案したという。(nishinippon.co.jp)
店内は、テーブル席が4卓のみのシンプルな造り。相席は当たり前で、隣り合った見知らぬ客同士が自然と会話を交わす光景も珍しくない。(b-gurume.com)
福岡の朝は、この一杯から始まる。長浜の風とともに、今日も変わらぬ味が人々を迎えている。