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仙台市青葉区国分町の一角、時代の流れに取り残されたかのような佇まいの店がある。1950年創業の「ほそやのサンド」だ。店先には、長年風雨にさらされ、日焼けしたコック姿の人形「ダンディー君」が、訪れる人々を静かに迎えている。
扉を開けると、木製のカウンターと手書きのメニューが目に飛び込んでくる。壁には年代物のコカ・コーラのポスターが飾られ、昭和の香りが漂う。店内は12席のカウンターのみ。狭い空間ながらも、どこか心地よい温もりが感じられる。
メニューはシンプルだが、どれも心を込めて作られている。看板商品の「ほそやのハンバーガー」は、和牛100%のパティに薄切りの玉ねぎを挟み、自家製のソースとマヨネーズで味付けされた逸品。特注のバンズは、ふんわりとした食感で、パティとの相性が抜群だ。注文を受けてから一つ一つ丁寧に焼き上げられるため、出来立ての温かさと香ばしさが口いっぱいに広がる。
創業者の細谷正志氏は、戦後、山形県東根市の米軍キャンプで下士官クラブのマネージャーとして働いていた際に、アメリカのハンバーガー文化に触れ、その味を日本に広めたいと考えた。1950年に山形で店を開き、1953年に仙台・国分町に移転して以来、変わらぬ味を提供し続けている。
現在は、2代目の正弘氏と3代目の暁裕氏が店を切り盛りしている。正弘氏は、「店を長く続けていると、ずっと同じじゃいけないんですよね」と語る。時代とともに変わるお客様の嗜好に合わせ、数年に一度、味付けを微調整しているという。その細やかな心配りが、3世代にわたる常連客を惹きつけてやまない。
店内には、かつて近くにあった洋画専門の映画館で映画を観た帰りに立ち寄る人々の思い出が詰まっている。映画の余韻に浸りながら、ハンバーガーとコーヒーを楽しむのが定番のコースだったという。
「ほそやのサンド」は、ただのハンバーガー店ではない。そこには、時代を超えて受け継がれる味と、人々の思い出が詰まっている。仙台の街角で、変わらぬ味と温もりを提供し続けるこの店は、訪れる人々にとって、心の拠り所となっている。